地球大学クリエイティブ 第3回 旅の経験をデザインする
speaker:竹村真一氏×水戸岡鋭治氏(工業デザイナー)
date & place:2008.11.21
新丸ビル エコッツェリアにて

たぶん、いままでの話の中で、最も素晴らしいプレゼンテーションだったんじゃないだろうか。今日はいくつもの大きな大きな気づきがあった。

まず、九州で走っている電車の九割がデザイナーズ電車だということ。次に、経済的な評価基準からは割り出すことができない「心がここちいいデザイン」という領域があること。ただ着飾っただけでバカにされるデザイナーズマンションみたいな、代名詞としてのものではなく、本当に心地いいものはやっぱりデザイナーズなのだ、ということ。

そしてそれが資本主義の論理とは逆説的な田舎の世界から生まれたということが驚きなのであり、デザインすることにもはや意味があるのだろうかと思っていた昨今、なにかとても勇気づけられるものを感じるのである。

※ 当記事は筆者が現場で速記した記録であり、聞き間違え等も含めて事実と異なっている場合があります




竹村
今回は先に水戸岡さんにプレゼンテーションしていただきます。

水戸岡
いろんな産業デザインをしています。15人でやっている小さな事務所なので、何でもやろうと思っている。あるときは海上自衛隊の艦船のデザインをやったりしました。迎賓ていって、天皇陛下が乗る船のデザイン。コマーシャル(商業広告)の世界にはぜんぜん参加していません。

デザインとは総合的で創造的な計画である

デザインは公共のためにあるべきで、デザイナーは公僕であると考えている。世の中で最も素晴らしいデザイナーは「お母さん」ですね。これはもっとも総合的で創造的なデザインなんです。それがひいては国になって、教育そのものがデザインなんです。

うちは15人くらいのチームでなんでもやっていく。JR九州も偶然の出会いから始まりまして、駅舎から、JR九州の車両の90%が私たちが設計したものが走っています。

最初はイラストレーションを書いてました

建築のパースをずっと書いていました。それから世界中の珍しい動物を書いていた。こういう色彩計画が車両のカーペットになったり、どんどん変化していくんですね。正確に書くのが性にあっているんです。ダヴィンチは、質と量まで描いてたんです。今ではコンピュータですが、当時は江戸時代と同じような作業をさんざんやりました。当時はパントーンフィルムで色つけをしていました。最近手を使って描くってことがないですが、このことの大切さはあって、オリジナリティも生まれる。目に見えるものはとりあえず全部書いてみようというのが私たちのデザイン。そういったものから琳派のようなものまで作っています。それからレンダリング。完成予想図って言ってますがこういうテクニックが身について、これを生かしてプレゼンテーションをしているんですね。外注すると高いんで、自分たちで全部書いています。



サイン計画。横浜のクイーンズスクエアのサイン計画をやりました。私たちいつもプレゼンテーションしていつも困るのが、初めて来た人が100%必ずすぐわかるものをつくってくれと言われますが、これをいつも断ります。60%くらいの人がわかるのが限界。来た人が学習していくことで解るようになるのです。ぜんぜん解らないからって、入り口のところに張り紙がたくさんでてくるのは美しくない。これはお客さんを甘やかしているからなんですね。これが日本の今のよくないところです。お年寄りだから解らないからそれは許されるのか、って思うのですが。そういうことをお役所で言うと叱られるのですが、公共なのだから、みんなが使う場所だからこそ、一度きちんと学習してから来なさい、と思っています。何回も来てわかるというのが、正しいサイン計画だと思っています。最初につくるのに、メンテナンス費用も計算しています。しっかりとメンテナンスされるからこそ美しい。


クイーンズスクエアのポールが真ん中にあるのですが、これは最初は邪魔だってことで両端になりそうだったのですが、端だと存在が解らない。それで結局は真ん中になりました。今では全国でどこでもこういう設計になるようになりました。ベンチは本物のチーク材を使ってまして、公共空間は個人では買えない最高のものをつかうべきだ、と言ってきました。これこそ豊かなことで、子供達は家庭もありますけども公共の空間で育つんですね。みんなが持つものが質の高いものであるべきで、それこそが豊かであるということなのです。



JR九州。必死で赤字をなんとかしたいってことで、デザインを社長が考え始めて、それに私がぴったりはまったんですね。それまで車両のデザインはやったことがなかった。今では駅、バス、ホーム、会社案内など全部やるようになりました。社長が偉かったのは、私が車両のデザインの素人だってことをわかっていて使ったんですね。(水戸岡氏はイラストレーションのデザイナーであって、元々専門の工業デザイナーではない)JR九州の社長は、担当者に必要条件はデザイナーに言いなさい、でも色と形には文句を言うなと言って、素人のデザイナーを守ってくれた。それがなかったらここまでデザインできなかったですね。

特急つばめ787

ホテルのような車両をつくりました。たくさん絵を描いて模型はつくりません、お金がないのでつくれないんですね。なのでたくさん絵を描きます。一つの車両をつくりだすのに500~600枚描きます。工業デザイナーにそれを言うと、そんなバカなって言われるんですけども。横着しようとするから模型をつくるんです。模型はあくまで模型なんですね。ホントは全部平面でつくれるはず、頭の中で完成させるのです。たくさん絵があればそこからイメージできるんです。最後まで不安がつきまとうんですが、体力勝負ですね。いつも不安になるけれど、だから失敗しないんですね。

サロンコンパートメント

今、日本人は知らない人と、ほとんど会話ができないですね。他人と座って会話をできるようになったらいいんじゃないかっていって、つくってます。

素材に木をたくさん使っています。傷がつく、割れる、メンテが大変、と悪いことばかり言われます。他のJRは一切、木を使いませんが、環境のことを考えると木しかないんですね。

私の事務所は徒弟制度で、若い人はデザインしません。私の下働きをします。いつのまにか私の書くスケッチを簡単に書けるようになっているが、たくさん書く。アイデアを出すのは難しいですね。アイデアを製品にはできるが商品にするのは本当に難しいです。そこそこできても本人たちは、まだ作業しているっていう意識でいることが重要。そして自分でデザインを始めたときは独り立ちです。独立するときに爆発するんですね。



ソニック883

ガンディーニのトラックをコピーしてデザインしています。私はあえて世界で最高と思われるものをコピーして使いたい。いつも車両には眼と鼻と口をつけて擬人化してつくっています。子供達はその方が覚えやすいんですね。

ソニックシート

日本で派手、派手っていうとそれは下品なことだと思っているんだけれど、僕は上品な派手をつくりたいんですね。派手な感じってのはつまり、夜行列車だと寂しいんですね。ひとりでも載っていても、誰かがいるようなワンダーランドな感じにしたかったんですね。



ゆふいんの森号

この車両に乗った瞬間からそこはもう湯布院というテーマで設計しています。


景観を見せるために車体が高くなってるハイデッカーなんで、内部に橋をつくってあります。車内販売のワゴンが通りやすいように。とりあえず食べたり飲んだりしないと会話は楽しくないって僕の持論なんですが。


ゆふいんの森1世のサロンなんですが、全部むくの梨の木の板でつくっています。壁も机も全部むく板でつくることで音が響くようになります。別荘の感じですね。照明は全部ダウンライトで、贅沢な贅沢なものをつくっていますが、お金はかけていません。こういうものをつくりたいんだけれど、いくらでつくれるの?って材料メーカーとの交渉までやります。これを車両メーカーに頼むと平気で定価で出してきます。だからものすごく高くなるんですね。少々傷がついていてもいいとか、そういうところまで突き詰めて、安い材料を見つけてつくっているんです。



特急かもめ

外観はヨーロッパの車両にも負けないシェイプを描いています。内装は床が木、革張りの椅子、飛行機よりも贅沢にできてます。普通はトヨタさんが車のシートを発注するときは、傷がなくて全部そろっている。っていうふうに発注するんですけれど、私たちは傷はOK、皺もOKってやっていくんです。そうしたことで、革張りの車両が出来たんですね。日本はものすごい大げさにオープンするまでに、フシがダメとか皺がダメとか、うるさいことを徹底的に言っていくんですが、そんなことを言っているから値段が高くなるんですね。どうせ乗った瞬間から傷だらけになるんです。そこをうまくやるからこういう革張りのシートをお金をかけなくても作れる。


フシがあってもそれが自然なことなんだから、そういうものを使うことがこれからのデザイン。どうせ使っていくうちにすぐに傷なんてつくんです。ハットラック。飛行機の荷物入れになってるあれですね。飛行機と同じ仕様で作っていて、ふたを閉めることで荷物が見えないので、すごく静かな感じになるんですね。これを使った車両は世界で九州だけです。ハットラックの方が忘れ物が少ないんですよ。荷物を載せただけの網棚ではうるさくなる。それが楽だからって、今は世の中どんどん楽な方にもっていって、それで国民の質が下がっています。そういう状況をもう一回戻していかなきゃいけないですね。

ギャラリー


トイレの前はギャラリーなんですね。長崎に関係している方の書なんです。こういうことをやろうとしたときに受け入れてくれるのがJR九州。お金もかからないけれど、何か人がやってないことをやりたい、というとOKが出る。会社になにかやりたいっていう気持ちがあるんですね。



通勤電車817

東京の地下鉄の元を私たちが作りました。アルミや木や皮で出来ているんですが、これが田舎を走っているんですね。通勤用だけど、雰囲気は特急並みです。とにかく不良が多い町らしく、最初は革張りのシートなんて傷つけられるって大反対だったんですが、とにかくやってみましょうよということで作りました。結果的にはとても綺麗につかわれています。子供達はずっと賢くて、大人達が本気でつくったものには傷つけません。俺たちの町にこんなすごいものがあるって思ってくれるのです。プラスチックで作ったりするから傷つけたりするんですね。やっぱり我々大人がしっかりしたものをつくらなければなりません。



九州新幹線800系つばめ

全部で30両しかつくっていません。かものはしっていって、東海道で走っている700系をリ・デザインしたものです。経済と文化と人を結ぶデザインをしています。外観は売るために、内側は使うためのデザインです。コンセプトは今回期待が大きかったもので、伝統的な素材、ユニバーサルデザインを積極的に使おうっていう。白地に赤と金と黒をつかっています。


要するに日の丸そのものです、というプレゼンをしました。九州といえば薩摩藩で、もっといえば沖縄で、って。そうやって物語をつけないとなかなか決まらない。縦に長い目をつけました。縦に長い眼を入れることで、子供達が絵を描きやすいんです。中の電球交換が凄い大変で、ダメだって言われたんだけれど、聞いたら交換は年に一度だっていうんで、やることにしました。現場の人たちはとにかく理屈をつけてやりたくない、って言うんですね。やりたくないっていうのをやらせていくのが僕たちの仕事です。

客席は西陣織をつかったパターン

出入台(特急電車入り口の空間)が暗いってんで大反対があったんですね。でもしばらく考えて、社長だけが賛成してくれたんです。「私はどちらがよいか解らないが、デザイナーにまかせたらいいんじゃないか」って言ってくれて私は守られたんですね。そこでトップが迷いはじめたら否定的な方向にいってしまうものなので、そこでなんて言うかが重要です。ものごとは信頼されているかどうかで決まるんですね。それくらい微妙であることを経営のトップは解っていてほしいですね。

トイレの前に、い草をつかっている暖簾を付けました。ベースに700系をそのまま使っていて、あまり大規模な変更ができないんで、こういうことを細かいところまで、とにかくやっています。客席の西陣織の柄もメーカーに頼むとろくなデザインがでてこないので、こういうもの私たちが全部つくります。

客室の妻壁

本来、企業広告が入る広告枠には、800系「つばめ」のイメージイラストになっている

山桜の木をつかったロールブラインド。こういったものをつかって日本の伝統を表現したい。客室の妻壁は楠をつかっています。楠には大変殺菌効果があります。できる限り天然素材を使うことを徹底しています。



隼人駅。悲しいかなこういう駅ばっかり田舎にあるんですね。この駅の前でライブ会議をやりました。社長から電気配線工事技術者まで全部集めて、お金も予算もないときはライブ会議をやるんです。この駅の前でデザインを描いて見せて決定します。隼人の町ってのは竹がいっぱいあるっていうから、竹を壁に貼ろうって言って、それだけでたったの72万円です。これを持ち帰ったって良くなるわけないでしょ。その場で全部出す。音楽がそうでしょ。こうやってJR九州は一個一個、駅を直していきました。予算が半分でも倍のものをつくる、それがスピードです。七十数駅全部で1000万くらいで直ってる。これをいままで持ち帰ってなんだかんだってやってたときに比べてものすごく安くなった。いままでは一体なんだったんだ?って (笑)。

隼人駅 鹿児島県霧島市(リニューアル案)

その場で絵を描くことは、つまりえことば。下手でもいいから書いた方がいい。スケッチを描く。絵言葉。色も言語、素材も言語、全部の言語でもって伝えるのがライブ。音、料理でもいい。漢字を五感で伝える。僕に音楽の技術があれば、音を付けて提供したり。五感で提供して、もっといえば数覚をいれて。面倒ですけども色鉛筆があれば色も付けて。出張していってその場で作って終わらせる。だからつまり芸者と思えば (笑)



おりんぴあどりーむ号っていう瀬戸内海の小豆島に行くフェリーのデザインをしました。全部で9億でつくっているんだけれど、ほんとは15億くらいかかります。この船の運転手が家族を連れてくるんですよ。エンジンの熱で甲板に足湯もできました。



福岡シティループバス「ぐりーん」。これは西鉄のデザインなので、競合のデザインをしたことになるのですが、競合をやるってのは大変なんですけど、西鉄の方から頼んできたんですね。あとでJR九州の社長さんに言われたんだけど、よくできたねって(おそらく良い意味で)。今は競合のデザインでもやる時代なんです。縄張りで生きてる人は少ないよ。おそらくこんなバスは日本中でここでしか走っていません。



いちご電車

和歌山の貴志川線ていうのが廃線直前になっていたんだけど、それを盛り上げようっていうんでいちごをモチーフにした電車をデザインした。こういうの日本人が好きで、かわいいって。パーティのできるサービスカウンターがついていたり、車内にお金を出してくれたサポーターの名前を全部掲載しています。制服も、お金をかけずにデザインしました。

二年目はおもちゃ電車ってのをやった。おもちゃ屋がお金を出してくれた。楽しい雰囲気で、いろんな椅子がある、それぞれにあった椅子を、木馬をつくったり。あまりにも流行って、ついに朝はぎゅうぎゅうになるようになったんだけど、そうなってくると木馬が邪魔だ、って言われたり。もともとは廃線なりそうたったのに、勝手なもんですね。何のためつくったのかをすぐ忘れる。今は、土日だけ木馬をつけるようにしています。ベビーサークルのある電車はこれ一つしかないと思う。とあるおかあさんが、赤ちゃんをベビーサークルに放り投げたように見えたんですね。そのときはじめて、赤ちゃんは熱くて重くて大変なんだってことを実感しました。それで、座席を減らしてでもベビーサークルをつくるべきだと思いました。これの車内にがちゃがちゃをおいてるんだけど、ホントにおいていいの?って何度も教育委員会に聞いたけど。いいんだって。子どもがすごいお金使っちゃうんですよね。教育委員会もなんも考えてないんだなあ、って思った。

三年目の今は「たま駅長」ってのをやってるんですけど、これが毎年乗客数が5%ずつ減っている貴志川線の売り上げを7%もアップさせてるんですが、今度はみんなが「たま電車」を作ってって言うんで、このあいだプレゼンしてきました。この電車を廃線から守ったっていうことで、国から1500万出るらしいんで、それと寄付も集めて作ろうってことになっています。プリクラが入ったり、ベビーサークルがあったり、それから図書館。たま文庫。猫足のソファー、天井に猫が飛んでたりしまして、これは遊びの世界ですが、今制作にかかっています。家具そのものは超一流のデザインを作ります。

わかやま電鉄 貴志川線
http://www.wakayama-dentetsu.co.jp/

All About 人気沸騰、和歌山電鉄のたま駅長に会おう!
http://allabout.co.jp/travel/railtravel/closeup/CU20080920A/

— プレゼン終わり —

竹村
感動した。っていうより気持ちいいですよね。デザインが良いとか悪いとかっていうだけでなくて、乗る人もクライアントも元気になっているし、基本的に水戸岡さんのお仕事の中に、リスペクトがあるんですね。子供をバカにしたデザインじゃなくて、大人が本気でこれがいいんだ、ってやってると子供も作ったものを傷つけないんですね。自分も本当にここまでリスペクトする仕事をしてたかなぁーーー、って思ったんですね。楽しくて美しい、けれども、そのデザインを通じてそれを見ている人たちが、こうでもいいんだな、贅沢でもいいんだな、って。人間って贅沢でもいいんですね。人間への信頼を回復する力がデザインにはあるんだ、と水戸岡さんの仕事から感じる。

水戸岡
バランスですね。経済が貧しくなっていけば、貧しくなる。文化の度合いが高くなれば贅沢になります。よくデザイナーのことを、アーティストだと思ってられるんですね。好きなことをしてるというふうに思われている。意見を聞いて、新聞を見て、情報収集をして、みなさんの思っていることと情熱を通訳翻訳して使い勝手に反映している。それがデザイナーの仕事であると思っています。私は利用者の代表として提案しています。じゃないと商品にはなりません、と思ってます。生意気かもしれませんけれども20年間そうやってJR九州とおつきあいしてきて、ようやく三年前に黒字に転換した。黒字になるとちょっと認めてくれるようになるんですね。

竹村
ニーズって、それをほんと聞き耳を立てないと聞こえてこないくらい。

水戸岡
みなさんそこまで自覚していないですね。多分こういう方向に行きたいんだろうなと。時代をみていて。最近はエコロジカルな方向に行きたいんだろうなとか。私の方では心がここちいいデザインをつくりたいと。体がここちいいだけだったら人間工学をトコトン突き詰めればできますが「心がここちいい」っていうのはとても難しいですね。木を使っていればなんとかなるんだけれど、樹脂を使った瞬間に、人間工学的にはいいんだけれど、心のここちが悪くなる。

私どもの事務所では「パン仕事」と「花仕事」っていって、ヨーロッパでもいわれるんだけれど「食べるための仕事」と、「つとめの仕事」私がやらなければならない仕事。戦前はみんなそれを、近所のこと、子供のことをきちんとやっていたんですね。それがなくなってしまった。団塊の世代がみんな企業戦士として働いていて、社会が近所が全部ダメっていうことが起きていますね。能力をアップしないとダメですね。能力をアップすることが、知識を持つことが、教養を身につけることが高いところに戻るためのことだから、それをデザインの中で捉えない限りは次世代の商品は生まれないと思うんです。

竹村
僕らの公共空間が貧しいから、分離しているだけであって、稼ぎと勤めと暮らし、三つ巴でもっと重なると、楽しい街であってほしいね。さっき「運転手が、そのうち家族を連れてくるようになりました」っていうのがね。ほんとに公共空間が貧しいから。今おっしゃった「稼ぎ」と、社会的な「つとめ」と、生活の暮らしっていうのがバランスよくならないと。

水戸岡
なかなか現実的にはできないんで、デザイナーとして。言葉では簡単にしゃべりますけども、現場ではなにもできないってことがありますね。

竹村
今日の話を伺っていて、デザインの力ってのは、まだまだ過小評価されてるんじゃないか、って思ったんですが。デザイナーができることってたくさんあるし、デザイナーがいい加減になるととんでもない害悪を流しますよね。

水戸岡
日本は自然の資源が少なくて、ひたすら加工をしてきた国ですから、元々デザイナーが多い国なんですね。デザイナーって言ってないけれど、事実そういうことをしている人は多い。最後はエコロジカルの話と同じで、三つのエコロジカルって話があって、精神的(個人のレベル)、社会的(複数の人)、環境的なエコロジカルがあって、ほとんど一番問題なのは、精神的エコロジカル、個人の意志の問題なんですね。とんでもない政治家がいても、僕らが選んでいることなんで、人を選ぶことも生きることそのものもデザイン作業なんだって、思っているとなにか違う答えが出てくるかもしれませんね。

竹村
会社名を「ドーン」(鈍)とつけられていて、僕にはスローフードを想起させたんですね。菌の都合にあわせてつくったチーズだとか、それを今は工業製品としてつくったものは非常にリスキーですよね。多様な菌が生きていることが安全保障なのに。これは効率的でもなんでもないです。これは長い目で見れば非常に効率的なことですよね。

水戸岡
私は愚鈍な子だったんですよ(笑)。鋭角なデザインよりは鈍角なデザインの方が好きです。って。

竹村
それがまさにスローな本質を表しているなって。ゼロから自分で描く。ゼロから描いている人がみつけた発見とか、頭の中で構成するもの。それを自分の手で描き再現することって、自分の中でどれだけ生み出されるものがあるかって。想像って対話の中で生み出されていくものなんですね。現在は、情報社会といいながら、情報過疎になっていますよね。

水戸岡
自分で持っている情報って本当は少ないかもしれないけれども、心にあるものをそのままそのまま「ことのは」にするって事が。人にたくさんぶつけているうちに、こんなふうにもこんなふうにも思っているんだって、自分がどう思っているっていうことよりも、相手がどう思っているってことの方が価値が高いんですね。興福寺の多川俊映さん(http://uwamuki.com/kinobunka/j/kikou/2004.4/tagawa.html)に言われたんですけども、日本人は昔から三つの原則で生きている。1.比較しない。2.不都合を受け入れる。3.対立構造をつくらない。ヨーロッパ人は自分の都合を押し付けて論破することをが得意ですが、日本人は決定をする前日に酒を飲みながら最も最適な答えを見つけ出すために話し合いをする、悪く言えば談合ですが、そうやって知的な答えを見つけてきたんですね。質の高い、戦いをしない、平和と質素を持った民族なんですよね。それを世界中の新しい文化と組み合わせていくのは日本人の義務なんじゃないかと。その話を聞いていたときに、デザインってのが生きるために本当に大事な手だてだって思いましたね。

竹村
最初からロジックとか対立とかじゃなくて落とし込んでいくことって、じねん、っていうんですけど、それを最近、自然(しぜん)、って読むようになったんですけど、ヨーロッパ的なバナキュラー(その土地固有の)な社会から見て、イラクに民主主義的なものがないのか、っていうと、そんなことなくてイラクにもアフガニスタンにもバナキュラーが、それにあたるものがあるのです。

水戸岡
組織的にも株式会社だとか、事務所のかたちがあるんですが、今の若い人たちにはもう合わないんじゃないかって思っているのですが、それを出してくれる人がいない。昔のシステムの中で、ぜんぜん違う今の五感をしている人たちがつかっているんじゃないか。仕事と生活の関係は変わりつつある。

竹村
健全な生き方がしやすくなってきたなと思います。ふつうに本屋さんが経済的に成り立っていたのは、右肩上がりの経済成長の中で、右にあるものを左にもってくるだけで成り立っていたんですね。いまそれがつぶれていくのは、インターネットが普及して、本屋がつぶれていくのは、アマゾンですぐ手に入っちゃうからですが。この分野なら絶対に強い、というソムリエみたいな人が求められている。個性的な視点で、編集や知的創造をするということが逆にクローズアップされてくる時代ですよね。今までは規模が大きい方が勝つわけですけども、もっともっとニッチな個性的なものが、固有の価値創造の世界ができてきてるなと思います。

水戸岡
エコロジカルな世界になってきてフェアプレイが評価されていく時代になっていくかなって。

竹村
ほんとにデザインが真っ当なものになってったときに、知的にバイブレートされるようになってきて。どんなに資源が無くても、やっぱり日本人がどこでこれから必要とされてくるの?ってことがある。そこにデザインの可能性があるってのは、素晴らしいですよね。日本人の期待されていく部分、ほんとの暮らし、稼ぎ、勤めってものの文化力が世界に貢献できるのではないか。こういうレベルでのデザイン立国ですね。そこでクオリティの高い文化レベルを作っていくことが、本当の安全保障かなと思います。

水戸岡
観光って、いつも会議に出て困るんですけども、それは豊かに暮らしている人々の暮らしをわざわざ見に行くってことなんです。その地域の水を検査すれば、その地域に住んでいる人の民度がわかってしまう。素晴らしい自然の中には、素晴らしい動物が居て、民度が見える。どうしても日本を見たい。なんであんな暮らしができるんだ!、そういうことを言われるようになるにはどうしたらいいのかってことですね。

竹村
日本有数の森を抱えた村があるんですけども、村長が座っている村役場の机は、そこの村の木じゃないんですよね。木ですらないんですよ。日本人はリセットができるんですよ。日本人はリフォームはヘタ。考えてみれば極端なリセットは得意なんですよね。

水戸岡
駅を森にするっていう企画を出すと、落ち葉が落ちるから、その落ち葉を誰が掃除するんだ、っていって木を減らしてくれって反対する。そんな話ばっかりなんですよ。でも植木職人にちゃんと聞くと落ち葉掃除が大変なのは、12ヶ月の中で1ヶ月だけだっていう。それがちゃんと説明されていないんですね。12分の1を我慢すれば、12分のは11は豊かなんです。全体を見る目がなくて。ちゃんと言えば納得すると思うんです。3回目、4回目、諦めないでいつもいつも同じ事を言い続けるってのが大事ですね。それがうねりになる可能性がある。

いつもどうやってプレゼンで説得されるんですか?って言われるんだけど、徹底的に受け入れるんですね。なんでそんなに受け入れられるんですか?って言われると、違うと思うことを受け入れ続けて、それで作れと言われて、出来るとは思うけれど、それで利益になるかはわからないし、困るのはそっちですよって思うから。役所はお茶が一回出てきたらあとは出てきませんね。一緒に仕事をしようっていうスタンスがないんですね。

竹村
掃除とか洗い物っていうのは結局心の整頓ですよね。新しい秩序を再構築する、とってもクリエイティブなプロセスですよね。それはただ単に、エントロピーが増えるっていうのはクリエイティブの邪魔ですから。

水戸岡
デザインについて色や形ってのは一切教えたくなくて、本人が持ってるものがあるので、教える必要はないと思っている。生きていくためのルールだけ教えたい。

木の床を作るっていう提案をするとだいたい、掃除が大変だからとか、傷がつくとかメンテナンスが大変だとか、経済的に最適化されたことを言われる。費用対効果はよくないかもしれない、手間は掛かる。そういうときは木にするメリットは木を磨くっていう感動が生まれますって言うんです。経済で切るとたいがいそういう話になるんだけれど、文化で切るとまったく違うものが見えてきます。ものを見るときに文化か経済か、っていうとすぐわかります。如何に文化を構築するか。経済だけできると楽な方にいってしまう。でも文化となると違うんです。手間暇かけて何をするかなのだから。経済で切ればひらがながいいですね、でも文化で見れば漢字です。

いくらトヨタがお金持ちになってもバカにされますから。豊田市は町が貧しい。駅前はさびれているし、公共の空間が貧しいままです。いままで世界でお金が集まったらきちんと町をつくるんです。いくら車がうまく作れるからってあんなことでは僕は好きではありません。

あと、さっきの掃除って話で、つばめは白の中の白をつかっています。一番真っ白い車体なので掃除は大変です。けれど、結果的にお客さんはいいですね、って思うんですよ。いままでお客さんは白かったところがグレーになると、汚れてるって思ってたんですけど、つばめの場合は白を更に掃除しています。だからだいぶコーティングされてるんですね。一日掃除の時間は30分て決められていますから、その時間の中でなにをするか。掃除技術も伸びて、根付いていく。知恵も生まれる。もっと難しい、ハードルを置くことで伸びていくんですね、厄介なことを喜ぶ。特に若い人は逃げないように、計算しちゃうとうまくいかないですね。

竹村
そう考えると今は計算ばっかりしていますね。二酸化炭素の排出量が90年比何パーセントとかって言ってますけれど。十分石油を使わない社会のシフトできるのに、計算ばっかりして損とか得とかってばっかり言ってるから。不都合受け入れれば、一気に脱石油にシフトできますよ。

水戸岡
あとね、この国は市町村の仕事をしてお金が出ることはありませんから。こんな国ありえないですよ。いまだに国のお抱え業者は、家具だったらコクヨ。文房具屋が家具を仕切ってるんですよ。グラフィックデザインだったら印刷屋。つまり国家から直接ものを考えるところに直接仕事が来ることがないんですよこの国は。ものを考える人に対価を払うという文化がそもそも無いんです。僕は逆に宇宙人だから何でもやっていい、と思ってやってます。みなさんもっと手間暇をかけてください。