先月末放送が終了した2017年度前期のNHK朝ドラはかなりの朝ドラのイノベーションだった。1964〜68年の東京において、主人公である有村架純に、右肩上がりの成長はすべてではない、夢を見ることがすべてじゃないよね、とセリフでは言ってないけれども、その生き方で表現させたストーリーが革新的だった。普通が一番素晴らしいのだと言い切った思想的背景は斬新だった。1960年代を舞台にした2017年的思想最先端ぶっちぎりだったと言えよう。

途中で何度か挫折しかけつつも結局最後まで見た。見てしまったのは、7月4日放送の80話においてビートルズきちがいで英国大好きな宗男おじさんが、インパール作戦の生き残りだったことが発覚したあたりからで、あれだけ英国を絶賛する人間が英国人とかつて殺し合いをしたのに笑っていられる精神性とはなんなんだろう?と、強く引きこまれてしまった。そのあたりから要所要所に巧妙に練り込んである時限爆弾が発動し始めた。(ご丁寧に、8月15日にはインパール作戦についてのNHKスペシャルまで放送された)

1964〜68年という四年間というのは、太平洋戦争の記憶がまだ強く残る中で、しかし日一日生きていくのが精一杯という状況も終わりつつあり、戦後の立て直しが終了し、国家一丸となって経済成長を目指していくことを世界に宣言したのが1970年の大阪万博である。世は高度経済成長真っ只中で、右も左も年々右肩上がりの経済成長の中で未来を志向することが当然であっただろう、その時代に、平凡が一番だと主人公に言い切らせたギャップというのは、むしろ2017年現在における格差が広がりつつある時代の要請のように感じられてならない。

成長することがすべてなんだろうか?その戦後高度成長期、ひいては西洋的革新主義の亡霊につきまとわれてきた「自由」とはなんなんだろうか?自由を追い求めていた1960年代の若者達は、ドラマ中盤である1967年夏のアメリカでのベトナム戦争反対デモをきっかけに全世界的に反体制運動が連鎖していく。(ベトナム反戦歌を歌っていたのもビートルズであった)そして1970年頃、何事も無かったかのように消滅していく。

ちなみにドラマの主人公達若者が、今現在70歳前後、いわゆる団塊の世代というやつである。半世紀の昔、自由を追い求めていた世代が、政治の中枢を担う与党第一党で、その名も「自由」民主党を名乗っているのは、偶然でもなんでもない。世代間闘争にもちこむつもりもさらさらないが、そういう方達とこの国で生きているのである。しかも、彼らの方が絶対数が多いのだ。と、まあそんなイデオロギーに触れるようなことは一切描かず最終回を迎えた。

それにしてもNHKというのは税金で賄われているにもかかわらず、実に気骨のある方々が物作りをされているんだなあと、つくづく頭が下がる。


物語のディテールについては、以下の方がとても解りやすく書かれている。

「ひよっこ」朝ドラ史上異色の主人公が教えてくれた人生で大切なこと
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53043