今回の英国の旅の目的地トッドモーデン。街中に『食べられる風景』があるという街だ。人口2万人弱の街の、警察、病院、河川沿いの道、カフェの前、教会、駅のプラットフォーム、空き地、あらゆるところに食べられる植物が育てられている。食べられる植物は、主にハーブ類と、英国でも育つ若干数の野菜で、日本の家庭菜園から見るとしっかり食べる、というよりは日常の料理に添えるようなものが中心なのだが、この街に住んでいる人たちはいつでもそれをとって食べて良いという。それは一体どういうことなのか?また、どうやって地域行政を説得し、地域住民を巻き込んで進めることができたのかを知りたかった。我々は6月27日 午前11時頃トッドモーデンに着いた。集合場所となっていた教会では、エステルおばさんがまずはTeaをどうぞと、歓迎してくれた。教会でお茶や食事、プレゼンテーションをして頂く。どうも彼女達はここを公民館のような使い方をして拠点にしているようだ。

トッドモーデンで起きていることは、TEDの動画や単館上映のドキュメンタリー映画になっているので、詳しくはそちらを参照されたい。また、今回の視察メンバーが主催での報告会を企画している。

Incredible Edible Todmorden(日本語字幕付き)
https://www.ted.com/talks/pam_warhurst_how_we_can_eat_our_landscapes/transcript?language=ja#t-63281

エステルおばさんのプレゼンテーションで、唯一最も印象的に残ったのは「警察の前にトウモロコシを植えたくって、友人の警察官に相談してみたの。そしたら『提案をいただくと通すのに3年はかかるでしょうね、だから私に言わないでください』と言われたの。それを私はOKって受け取ってやってみちゃったの」という一言だった。勝手にやってみたという結論。ただし、行政は後から追いかけてきて、土地をライセンス管理するようになった、そうだ。先にやって見せてみて、行政は後追いでやってきて、協業する。やっぱりそうかそれしかないか、その一言を聞くためにここまで来て良かった。

僕は、今年2017年の春から、都市における農体験、食べ物を自分でつくることの方法について考え、実践してきた。そんな最中、ひょんなことから6月の頭頃出会ったクライアントに、出会った当日に突然「今月末、トッドモーデンに行かないか?」と誘われ、今日に至る。断る理由は無かった。興味対象の一致、彼らと一緒に見られるヴィジョンに寸分の狂いも無さそうだった。彼らは東京で『それ』をやりたいと考えている。

英国に渡ってからの数日、見聞きしてきたものを組み合わせると、2017年6月というタイミングでの英国ということに大きな意味があることが見えてきたように思う。産業革命・植民地支配の時代からの圧倒的な工業偏重、一次産業というものはこの国に無いということを風景や土地や歴史がよくよく教えてくれた。なのに、英国はEUからの独立をしようとしている。実質食糧自給率30%の国が、食べ物の時給なしに独立を目指そうというアンビバレンツな状況の中で、ある意味最も困難な崖っぷちな状況を抱えている状況だからこそ、市街地に畑やプランターをつくる、というごくごく真っ当であり画期的な街作りのプランが生まれてきたのかもしれない。(ちなみにこの活動は2009年にスタートした)

国中の森という森をきりとって鉄をつくり、鉄の大砲でスペインの無敵艦隊にうち勝って、世界帝国になって植民地支配をした国から持ってきた原材料によって、ある時代の富という富を集めた英国という国は、いま大きな転換期に差し掛かっている。調べれば調べるほどこの国の歴史は皮肉なものだ。資本主義と産業、ビジネスを生み出した国が、行き詰まっている。ビジネスは国境を越えて膨張を続け、国家は過去のしがらみに引きずられたままだ。だが、水面下では静かに静かに変化の兆しも生まれている。本当の意味での独立は、やはり食べ物を自分たちでまかなえるようにならなければ成し遂げられないと思うのだが、しかし世界は益々ヨークで見た『ready-made meals』や、遂に日本でもサービスの始まった『Amazon Fresh』。それらにカスタマイズされた調理道具が登場してきたり、手作り料理自体が、DIYのような特別なものになっていってしまうのかもしれない。そのとき、どういう立ち位置でどういうバランスでいたらいいんだろう?ということをここのところずっと考えている。

COOP(生活協同組合)もこの国から誕生した。産業革命の後期、マンチェスターの工場労働者たちのあまりにも粗末な食料を是正しようということから始まった。小麦粉にチョークを混ぜたり、バターに水と着色のための銅粉を混ぜていた時代のことだったそうだ。NPO・NGOの起源を探っていくと、プロテスタンティズムに行き着く。英国は、英国国教会の国であるとともに、プロテスタントの国である。神の支配から逃れて、自分たちで自分たちの世界をつくっていこう、という人類の根本的な思想はドイツ人、マルティン・ルターの宗教改革によって生まれた。この英国における状況は、フラット化する世界に抵抗する英国紳士の抵抗と、若者達の絶望。けれどそこに僅かに見え隠れするプロテスタンティズムによる自浄作用のせめぎ合いなのかもしれない。

それからこの国には『english garden』という素晴らしい文化があった。日本がどこまで行っても家家家・・・といった風景であるのに対し、この国ではどこまで行っても庭庭庭・・・。どこまでもガーデンが続いているのである。金曜日の夜には『Gardener’s world』という、ガーデニング番組を家族みんなで見て、週末は庭造りに励むのである。今回、ガーデンに対する異常な情熱までは調べることができなかったが、一次産業が無い代わりに、庭いじりに対するリテラシーのベースの値がとても高いという豊かな文化を持つ。このあたりが、都市部における農的活動を進める上では大きなアドバンテージになってることは間違いないだろう。

いずれにせよ、変化の火種は崖っぷちの地域から始まるのは、洋の東西関係ないらしい。


ドットモーデン。マンチェスターとリーズの間にある人口2万人弱の小さな街。丁度良いサイズ感が心地よい。かつて氷河に覆われていたため、現在でも土壌は痩せている


Incredible Edible の活動拠点となっている Todmorden Unitarian Church でプレゼンテーションしてくれたエステルおばさん


すべてこの地域でとれたという食べものを教会の中でいただく


教会の庭ももちろん Edible Garden


Incredible Edible の活動として、一番最初につくった Edible Garden。ただの空き地だったという


こうやってどこでも食べていいのよ、と実践するエステルおばさん


カフェの前にある小さな Edible Garden


運河沿いは全て Edible Garden になっている。サイン計画によって、そこに植えられている食べもののストーリーが説明されている


ヘルスケアセンターの脇にある Edible Garden は健康のことに繋がるストーリーが書かれていた


例の警察の前にある Edible Garden


駅のプラットフォームにある Edible Garden


エステルおばさんと、今回のツアーのメンバー、ガイアドリーム社一行