英国湖水地方、ウィンダミア。石造りの家をつくるこの国にも地域ごとの様式というものがあるようで、ウィンダミアに入った瞬間、羊よけの道路の石壁と家の外壁が真っ黒になった。それも、薄い石を何層にも重ねてまるでミルフィーユのような、なんとも独特の景観に目を奪われる。これはどこかで見覚えのあるような、宮城県雄勝でも産出されるスレートではないか。我々の身近なところだと、東京駅の屋根に使われている、黒い石のことである。この石、日本語では「粘板岩」といい、砕くと薄い板状に割れる。高い防火性能が特長。

粘板岩
https://ja.wikipedia.org/wiki/粘板岩

羊の壁、家、それから庭の階段、畑の土枠、看板、レストランの食器にまで、ここにいるとありとあらゆるところにスレートが使われている。日本だったら木でつくってしまいそうなところがすべて石でつくられているので、尋常ではない量の石が、ここではスレートが、使われるのだが、湖水地方の中央部にあるホニスタースレート鉱山から運んでくる。

このあたりではスレートはありふれたもので、湖水地方とウェールズ地方は石炭、鉄鉱石、銅など、産業革命を支えた地下資源が豊富にある。その土地にあるものから景観が作られる。マンチェスターではレンガから、これは工業都市であることの象徴なのかもしれない。同じ石造りでもこれだけ地域差が出るということが驚きだ。このスレートの壁、どこもかしこもけっこうな量のコケが生えているのは、英国の中でも雨が多い地域であることを物語っている。4月の春先に軽井沢や那須あたりにいるような寒さと湿度を感じるが湖水地方と同緯度の都市はモスクワである。ここはかつては氷河であり、北大西洋暖流がなければ雪と氷に閉ざされていたであろう極寒の土地だ。

ドラクエなどなどで昔から西洋の町並みの風景を知ってるような気がしていたけども、はたしてその土地の地層や産業構造から必然的に生まれてくる風景の差異をディテールに落とし込めていたようなファンタジー作品はあったのだろうか?ほぼ唯一スタジオジブリ作品からはそういう心意気を感じるのであり、そこに我々は魅せられてきたのだと思うが、それもナショナル・トラスト運動があってこそのものだと思う。


湖水地方の伝統的な家屋ではスレートを薄くしたものを積み重ねて外壁を構成している


日本では車のガードレールがあるようなところが、ほぼすべて羊が路上に出てこないようにするための壁になっている。ここはカエデ系のツタが這ってきている


壁の上側は石を立たせている箇所もある。ただ乗せているだけだったり、セメントで加工していたり、それぞれ


家の外壁にうまいこと窓をつけているパターン。あえて直線を出さずギザギザにしてあるのもまた良い


この日宿泊した Sawrey House Hotel。中世の洋館のような建物。ここも当然外壁はスレート。ホテルの隣は、ピーターラビットの作者ビアトリクス・ポターが執筆時に住んでいた家がある


ホテルの庭の階段も当然スレート


ホテルのあるニア・ソーリー村の風景。中央右側の白い家がビアトリクス・ポターの生家。ナショナルトラスト運動が生まれた村でもある


ビアトリクス・ポターのナショナルトラストツアーのお土産屋さん


これも英国の文化で、フットパスという、「歩いて入っていいよ」という意味だろうか。民家の軒先を歩いて良いところは書いてある


19世紀、産業革命とともに急速に自然が失われていくときに、3人の市民が「ナショナル・トラスト」を発案したんだそう


ニア・ソーリー村の民家。すべての面がスレートというわけでもないらしい


全面スレートでつくられた小屋