デザインの窓 第5回 鈴木エドワード編
speaker:竹村真一氏×鈴木エドワード氏
date & place:2006年12月7日
大手町カフェにて

※ 当記事は筆者が現場で速記した記録であり、聞き間違え等も含めて事実と異なっている場合があります


竹村
バックミンスター・フラーという20世紀を代表する思想家について話したいと思います。私が触れる地球儀を考えるきっかけになったのがバックミンスター・フラーのワールドゲームという思想でして、70年代にはすでに提案していたと思うのですが、東西が核ミサイルによってにらみ合うのではなくて、東と西というのは夜の側に昼の側がエネルギーを融通を融通する。エネルギーの相互協力関係がもてるじゃないか。というようなことが考えれるなということです。省エネ節約成長の限界っていうのは、未来に対してあまりポジティブなイメージがもてない時代に、フラーは欠乏は幻想だ、っていう。人間はもっと知性を発揮すれば、いまのエネルギー問題にしても大胆な解決ができるはずだ。ぽっかりと穴をあけてくれる感じがしたんですね。僕がバックミンスター・フラーに本格的に触れ始めたのは90年代かな。で、実はそれよりもっと前からバックミンスター・フラーのことを考えられていた鈴木エドワードさんとお話をできたらとおもいます。

フラー的な発想を未来に対して深化させていくというお仕事をされていたわけですが、もともとフラーに出会ったのはどういうきっかけだったのでしょうか。

鈴木
大学で卒業設計に入る前に、当時ある日本のプレハブメーカーが国際的なコンペを、パーソナルスペースというテーマでやっていました。パーソナルなスペースを夫婦でつくれるような軽い物を考えました。空気構造かな、風船かな、と。風船ていうと球体になりますよね。住宅となるとそれなりにモジュール化しなければならない。そこでフラーのジオデジックドームが最も優れていると思いました。

基本は三角形なんですね。三角が最もシンプルな自己安定型なんです。四角はジョイントがフレキシブルなものであれば平面でも不安定です。立体としても成立しない。要するにくにゃくにゃかたちが変わってしまうということですね。従って三角形の安定した平面が四つ集まって正七面体を構成します。テトラというのは一番シンプルな多面体ですが、器としては非常に効率が悪い。球体が最も効率がいいんです。従って自然界の形として、球体が最もテトラから成り立っているもんですから、構造的には強くしかもしっかりと安定した一番器としての効率が高い、イコール、エコノミカル。なので自然界ではいろいろ使われている。風邪のウイルスなどなど。これがフラードームなんですね。最近では新しい炭素が発見されました。フラーが何十年も前から開発してきたフラードームと酷似しているころからバッキーボールなどと呼ばれる。サッカーボールのかたちをしています。原子が60個重なってこういうかたちをしています。最も効率よいかたちを作ることによって、ゴミが最小限になり、マスに対して効率アップすることよってサービスできるんじゃないかという考え方で提案をしてきました。

竹村
ちょっとそこで補足なんですが、四角だと他のエネルギーをかけたり、ほかのことをしないと形が定まらないから、効率がいい。三角形を組み合わせていけば最小限のエネルギーで構造体がつくれる。それが自然の原理なんだけど、球にしていくのがいちばんいい。最小限の表面積で最大限の容積がとれるから、それだけ省資源になるわけですし、熱効率、その分熱効率も悪くなるわけで。僕ははじめてこれに出会ったのはフロリダのディズニーランドですよ。自然のデザイン原理を人間がやるとしたら、ということで提案されていたのがバックミンスター・フラーだったんですね。

鈴木
ところがほとんど人間がつくるものは、90度をベースにしたキュービックなものですよね。壁の仕上げなどをみてみるとほとんど、筋交いが入っています。それがシングルであったりダブルであったりするんですが、これは四角いものを三角形化するためにあるんです。なのでキュービックな建築で成り立ってると思いがちですが、全て三角形によって成り立っている。

竹村
アメリカなんかではだいぶバックミンスター・フラーの仕事は実用化されてるんですか?

鈴木
残念ながら。われわれの頭は丸くなっていないんです。キュービックなスタイルが自然だとされているから、産業的にはそれがスタンダードになっているもんですから、それ以外のことをしようとすると、コストアップに繋がってしまうんです。もうひとつは、我々の建築的な産業のディテール、おさまりですね、の考え方がキュービックをベースにしているんです。特に球体になるとおさめかたに、それなりの欠点が生まれてくるんです。雨漏りがしたりしてします。

竹村
思想的には相当大きな影響を与えたと思うんですが。

鈴木
地球。宇宙船地球号という言葉を聞いたことがあると思いますが、これもフラーがだいぶ前に提案したと思うんですが、彼は、このローカルな環境を、地球がベースですから、彼は常に全体像から始まっていくんですね。昔ホールアースカタログなんていう雑誌が、ヒッピーの中で流行りました。フラーはこういう地球を第三者的なポジションから見ると、この地球という乗り物は、太陽の周りを時速何万キロという速度で動いている、大変優れた乗り物だと、彼は考えたわけですね。従ってこの地球をただ我々は乗ってるだけでなく、生きてるものとして学ぶ物が多い。いろんな自然なデザイン。プロセスなどを発見するんですね。そういうことから自然に働いている原理を、開発発明することに応用していくというとこを生きているあいだにずっとやってきたわけです。ローマのコロッセオ、万里の長城。石、最近では鉄骨、堅く一見強いものでおみせしていますけども、マジノラインという第二次世界大戦のドイツからの防壁がありましたが、これは一晩で突破されるんですね。それも地球は裏側からアクセスされれば突破されてしまうんですね。従ってこれはなにを意味するかというと、力ではなくて技が、テクニックがものをいうんだということですね。従って三角。一番効率のいい球体をもってフラードームを考えた。それだけではなくて、フラードームの空気構造化されたもの。自然界で発見される微生物などの例をあげているのですが、自然界ではフラーが考えた通りの構造システムが生かされている。個体しかわれわれの眼に入ってきませんが、万有引力というものがあって、太陽系が成立してます。逆にミクロの世界では引力ではなく電磁波という引っ張り剤が働いている。このようにマクロでもミクロでも目に見えないものが構造体を成立させています。テンシビリティという言葉を考えました。引っ張りの力を意味しています。正二十面体。イコサヘドロンというもの。ドデカヘドロン。これらはすべてテンシビリティによって構造化されています。

竹村
テンシビリティって、どういう文脈で聞けばいいんだろうって話だと思いますが。仮に、船ってぐーっと木を曲げる感じで、テンションていいますが、柔軟性のある木材を伸縮させている。バックミンスター・フラーっていうのは、彼、海軍にいて海の発想なんですね。陸の発想がパルテノン神殿とかああいう頑丈なものをつくってしまうんですが、海で作業をしようとしたら、軽くて柔らかい、波に抵抗しないでいいものをつくらなくてはならない。伸縮自在なしなる竹をつかうとか。軽くて柔らかくて最小限の素材で、テンス、つまり梁、という構造でつくっていく。それが次の文明のガイドラインになるんじゃないかと考えた。これは本当に大きな文明論だと思うんです。

鈴木
ヨットのマスト。船というのは強く軽く有る程度のしなやかさをもってないと成立しない。どれだけ軽くしかし強く風を受ける帆をつくれるか。で、そのシステムのテンション材はいま言ったような、ワイヤーとのコンビネーションによって成り立っているんですけども、圧縮材とテンション材のシナジェスティックな、一つ一つでは予測できない全体像の力。しかし二つが一緒になって成立する。原子核のプラスの力とマイナスの力が良いバランスを持ちながらこの宇宙をつくってるわけですよ。それぞれだけで見てみると我々何も考えられないけどもこれらが集まって一つのシステムをつくると、ベーシックなモジュールができる。それらがまた、お互い一緒になって結合をはかるとたとえば水素と酸素があつまると、我々の生活には欠かせない水が誕生する。これがシナジーという言葉です。

竹村
水ってのは、いままでの話を全部総合したような話ですよ。水素と酸素の間の化学結合で結びついてますが、水素結合っていって、簡単にきれる力なんだけどもおなじ力で手をつなごうという傾向があるから、薄いテンスがあるから。水の結合は正四面体を構成していて、結果的に六角形になって、雪の結晶みたいになる。

鈴木
フラーの開発したいくつかの例をご覧にいれたいと思いますけども、これはかなり初期の頃考えられたダイマクシオンハウス。三角六角を基本にして屋根が吊られているのです。地震にも強い。けども特にプレハブ住宅産業には、あまりいままでつかわれていないからコストが高くなってしまう。

竹村
日本なんて全土が地震ですから、いかだの上に住んでるようなものなので、日本に最も必要な発想だと思います。

鈴木
今のが一戸建て住宅だったんですが、フラーはそれだけでなくて集合住宅まで提案しているんです。ニューヨークマンハッタンはほとんどピン、ニードルのごとくスレンダー。最低の効率の建物なわけです。それは非常に負荷においてマイナスに等しいことから、雨の水もコレクトできるし、設備的な負荷を押さえられるから、こういう巨大なドームを提案したことがあります。全体で冷暖房を共有する。

これはさらなる発想で、気球の原理ですよね。気球は下にはほんの小さいバスケットしかないんですけども、これくらいの都市になると、大きくなればなるほど浮力が付きやすい。中ががらんどうのときは温度差によって空気の軽さ重さの違いによって浮き上がる。物理ではスケーリングっていいますけども、我々が氷を早く溶かしたいときには、表面積を大きくすることによって溶けやすくする。ある時期になるといままで足りていた表面積が足りなくなってしまって、表面積を増やす。太っている人はやせている人より汗をかく。体積でまかなえないから、スピードでまかなうんですね。

竹村
キュービックをベースにした場合は表面積の効率がどんどん悪くなる。

鈴木
最終的に球が、体積対表面積では一番効率がいい。

空気の流れが速くなればなるほど、直角に対して冷たい空気、あたたかい空気、鉄板が外壁材で、卵が焼けるほどのあつさになるんだけども、なかにはいるとエアコンをばんばんつかっているようなごとく涼しい。空気の流れを左右するために二重構造にはなっていますが、それによって断熱効果があるわけではない。

今度は乗り物なんですが、最初の車、自動車というものはフラー曰く、馬車からきているんだと。断面的に非常に効率の悪い形状をしている。従って風の流れの実験をしてみると、風の流れをはかって、ダイマクシオン・カー、というものをイサム・ノグチさんと協力してつくりました。魚のような形状をしていまして、風の抵抗に対してミニマムにデザインされている。確か2-3台実現したんですが、事故によってスキャンダルになってしまいました。これは本当に優れた乗り物で、後輪がコンパスのように機能しました。

シナジー SYNERGY 部分の力では予測できない全体の力、を意味しています。SYN、シンフォニー、だとか、まとめるとか、ポジティブな意味を持っています。この宇宙はすべてシナジー効果によって成り立っているのではないか。科学では説明できない力。

縄という言葉がありますが。あなたという意味の「な」と、わたしといういみの「わ」を組み合わせているそうです。それが沖縄の語源となります。


まさしくフラーが晩年考え出したのが、ワールドゲーム。竹村さんが、触れる地球をもってこれは教育の道具にも使えると言ったんですが。むかしマルサスという経済学者がいて、東インドカンパニーから頼まれてあるリサーチをしたのですが、人間がつくる食べ物の食料生産力は、人口の増加速度以下だと。食料の生産がおいつかないために、100パーセントの人間は生き残れないと言ったんですね。19世紀のことです。その当時はそれで正しかったんです。その次にダーウインがきて、弱肉強食の中で一番強い人が生き残るんだと言ったんですね。それでマルクスがやってきて、労働者が一番働いているから労働者が一番偉いんだ。って言ったんですね。だから戦争がいまだに無くならないんです。フラーがワールドゲームを通して語りたかったことは、そのような流れはもう終わったんだと。世界が一つとなって国境を破って、がんばって努力をすれば100パーセントの人類が生き延びれるだけでなく、生活水準を上げながら生きていくことができる。ということを訴えた。

竹村
フラーは50年代に国連本部の前に大きな地球儀をつくって、そこにリアルタイムにデータを表示していれば。欠乏は幻想だ。と。新しい鉱物、鉱山をつくらなくったって、リサイクルをすれば。それを国民みんなでシェアすれば。その前提が変われば地球社会ってのは可能だから。一番大事なのは政治じゃなくて政治を必要としなくなる科学。ヴィジュアライゼーションだとフラーは言っていたんです。

鈴木
ゲーム理論てのは、いままで必ず誰かが勝ったら誰かが負けなければならないっていうものだったのです。

竹村
適者生存ではなくて、誰もが生存できるように考える。京都議定書によって、もう国内ではCO2を減らせないから、地球の裏側で植林をしたりするということを、可能にしたのが京都議定書の意味なんですね。

鈴木
物質的にいえば、全人類を食べさせられるだけの技術があるのに、地球の裏側では死に続けている。物流だとかたくさん問題はありますが、国境がなくなれば政治がなくなれば実は一番うまくいくんだ。だから政治家をみんなロケットに乗せてとばせてしまえ、みたいなことを言っています。

竹村
こんな常識外れな人もいるのか、と思われたかもしれませんが、じゃあ常識とはなんなんだ。クリティカル・パス。海で難破したときに、ぷかぷかピアノの蓋が流れてきたときにそれはすがりつくでしょ、でも今の社会っていうのはすがりついてる状態なんです。着慣れた服を脱ぐ自由もある。人間の場合はあらかじめプログラムされた部分がミニマムで、後天的な部分はかなり自由にすることができるんです。そこが人間らしさの本質なんですね。他の動物は事前に組み込まれたDNAの中でしか動けない。さっきからでてきた空中に浮かぶ都市とか、とても常識外れだと思うのですが、もっとも人間の可能性を研究したのがバックミンスター・フラーだと思うんです。

鈴木
常識、英語でコモンセンスっていいますけども、時代によって常識は変わっていきますから。変わらないと逆におかしい。

竹村
人間の可能性に対してすごくポジティブに考えている。彼の個人的な体験、究極的に自殺を考えるまでにおいこまれたときに、どんなにとるにたらないにしても、自分は一人しかいない。経験目録だと思ったんですね。持つか、持たざるか。この経験目録を持っているのは自分しかいない。一人一人の、フラーはマスというような概念ではなく、一人一人の経験目録を最大限に生かして知性を働かせたときに、クリエイティブになれる。そこがなってないときに、静かな怒りを感じてた人なのかなあ、と思います。

鈴木
彼が自殺を図ろうとしたときのことなんですけども、彼は非常に詩人でもあるんです。



もし、ポエムが最小のかたちで、
最大のことを言うものであれば、
史上最大の詩人はアインシュタインなんじゃないかと思う。
彼はこの世界をすべてe=mc2でまとめてしまったんだから。




彼はふっとあきらめたらしいんです。そんなときに、スッと入ってきたんだそうです。彼も会社をはじめた頃、大変な不況でたった一人の娘も死にかけていて、彼女に薬を買うお金もなかったときに、ミシガン湖のほとりで身を投げようとしていたんですが、junp or think。そこで開き直ったときに、全部すててしまえば、考えられるんじゃないか。自分は自分のものではないんだ。いやでもこの宇宙に生命として生まれてきてしまったんだから、開き直って生きてみようと。

竹村
この世界に人間として存在すること自体がとてつもないことなんですね。生きるということは、その人自身に帰属しているものではない。多分、人間ていうのは戦争をするために、金儲けをするために生まれてきているんじゃない。そういうことに対する疑問なんですね。その答えが、あなただけのために生まれてきているんじゃない。ということだと思うんです。その小さな、パーソナルな経験目録をみつけたことが、発見だったんだと思うんです。

鈴木
c60(炭素60)が発見され、バッキーボールと命名されているくらいだから、これは彼のノーベル賞受賞でもあると思うんですが、相変わらず科学界からは受け入れられていないんです。

テンシビリティ構造っていうのは、以後でてきていることは出ているんですが、ファッション及びムーブメントでしかないんです。構造家の間では、テンシビリティでなければ話にならないというところまで盛り上がったのですが、残念ながら大規模建築の方が、それは非常にドラマチックに演出できるんで、構造家の間で盛り上がっているんですが。自分も含めて、政治経済、社会構造がこうだからこそ、違うことをしようとしても成立しない場合は多いもんですから、理想的なことが実現していないというのが現実だと思います。僕も機会があればフラーの考え方を広めていますが、最終的にはやっぱり教育問題だと思いますね。最近ちょっと面白い、インディゴチルドレン?、中国で発見された新人類がいるらしいんですが、これは彼らの肝臓のDNAがまったく違ったものになってきている。そのきっかけはジャンクフードらしいんですね。これ以上ジャンクフードを食べ続けると人類が滅びてしまう。学校で問題化されていたんですが、ここにいてわかったのは、すぐわかってしまう内容のもんだから、こいつら集中力がないんじゃないかって問題児化されてたんですが。

竹村
フラーについて確認したいのが、人類は進みすぎて環境破壊しているんじゃなくて、進化の途中だから環境破壊しているんだ。大変なポテンシャルを持つ人類が宇宙に存在しているということはなんらかの意味があるんじゃないかということなんです。ただ単に環境を保護するということだけではなく、どうしたらそのような環境破壊的な意味を持つ人類をコントロールできるのか。

60年代とか70年代は、DNAを解明すればなんとかなるんじゃないかって思ってた頃ですね。しかし解明すれば解明するほど生命現象は作れない。タンパク質はつくれるかもしれないけども。こういったデザインサイエンスはこれからだ。



鈴木エドワード建築設計事務所
http://www.edward.net/

バックミンスター・フラー – Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/バックミンスター・フラー

松岡正剛の千夜千冊『宇宙船地球号操縦マニュアル』
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0354.html